2010年に「よみタイム」というニューヨークを拠点とする新聞に執筆していた記事の概要です。この新聞はニューヨーク、ニュージャージー、コネチカット、フィラデルフィアの日系レストランや企業、学校などで手に入れることができ、月に2回発行されています。私は「ゴルフの力」というテーマでの連載を担当していました。しかしながら、社長の吉澤さんが突然亡くなったため、連載は一年余りで途中打ち切りになってしまいました。とはいえ、その当時からPRIISM Golfの基盤がしっかりと築かれてきたのは間違いありません。

ゴルフの力
よみタイム「ゴルフの力」

Yomitimeコラム:「ゴルフの力」

このコラムでは、身体能力とスイングという二つの視点を通して、ゴルフライフの向上についてお話していきたいと思っています。

「身体能力がいかにスイングに影響を及ぼすか?」

身体能力がいかにスイングに影響を及ぼすかということについて書きたいと思います。往年のアーノルド・パーマーのスイングと今年82歳になる彼のスイングは、スイングの弧の大きさ一つとっても全く異なります。スイングの弧の大きさは、体の柔軟性による所が多く、80歳を超えた彼の柔軟性の低下が弧の大きさの縮小に表れています。彼のバックスイングの位置は、現在ではグリップが右肩のあたりまで上がる程度で、全盛期と比べて小さなバックスイングとなっています。

このように身体能力がスイングに及ぼす影響は非常に大きものです。しかしながら自分の身体能力を知っている方はどれだけいるのでしょうか? 今までレッスンを受 講し、何度もスイングの型について同じことを指摘されても直らない。。。そんな記憶がある方は少なくないと思います。もしかしたら、あなたの体はそのスイングを作るだけの土台が 無いのかもしれません。 土台が無いまま形だけ取り入れると、そこに「コンペンセイ ション」(代償運動)が生まれてしまいます。そしてこの「コンペンセイション」こそがゴルフスイング向上の大敵なのです。
次回はこの「コンペンセイション」とは何かというものを具体的に話していきたいと思います。


「コンペンセイションについて」

前回のまとめ:身体能力がゴルフのスイングに大きな影響を与える。

さて第二回目になる今回は、前回お話したコンペンセイション(代償運動)について書きたいと思います。

人間の体は200以上もの関節から成り立っており、非常に順応性に富んでいます。そのため、一つの関節等に異常があり、ある動作ができなくなっても、似たような動作でまかなえてしまうのです。(異常とは、痛み、稼動範囲の低下、弱さなどを指しています)。例えば、足を捻挫して ギブスをはめた事がある方はいらっしゃると思います。しかし、ギブスをはめたからといって全く歩けなくなるでしょうか?そんな事はないと思います。決して「通常の歩き方」 ではないでしょうし、痛みでビッコをひいくかもしれませんが、「歩く」という動作はできるはずです。それがまさにコンペンセイションなのです。 ほかの関節や筋肉が、使えなくなった足首をかばって「歩く」という動作を可能にしてしまっているのです。そして、このコンペンセイションから生まれる動作には3つの大きな問題があります。一つは、動作が不規則であること。2つ目は非効率的であること。そして3つ目は他の箇所に負担をかける、というです。この問題をゴルフスイングに当てはめてみましょう。身体能力に問題があり「スイング」という動作を行うとそのスイングには左記に述べた3つの問題が当てはまります。

  • 1.「動作が不規則」=スイングが一定でないのでボールが曲がる、
  • 2.「非効率的」=飛距離が出ない、
  • そして3.「負担をかける」=怪我がおこりやすい。

僕はレッスンプロではないのでスイング理論は専門外ですが、僕は「コンペンセイション」が無いスイング=何度も同じスイング軌道で打てて、効率的で、体に負担が無いスイング=良いスイングだと思っています。ですから、前回あげたアーノルドパーマーの例をとってみると、彼の82歳のスイングは小さくパワーの無いものですが、それは今の彼の身体能力に合った、コンペンセイションが無い、つまり良いスイングということになります。

自分の体の柔軟性や筋力などの状態を把握し、自分自身にあったゴルフスイングを作るということはとても大切です。そして身体能力は年齢を問わず向上させることが出来ます。ですから、身体能力をトレーニングによって向上させ、自分の目指すスイングを行えるだけの土台作りをするということが大切なのです。

プロがスイングチェンジに数年間もをかけるのも、土台作りから始めているからで、その大切さを表していると言えます。次回は、具体的にどのような身体能力の欠陥がスイングの欠陥につながるかということを具体例を挙げながらお話していきたいと思います。


立位体前屈テスト

前回のまとめ:コンペンセイション(補正作用)の無いスイングが良いスイング。

皆さんは小、中学生の頃に行った身体測定を覚えていますか?そのなかに必ずあるのが立位体前屈でしたね。この立位体前屈は、 腰から股関節、ハムストリング筋(左参照)までの柔軟性を測定するテストです。下にある方法でぜひ、あなたの柔軟性を測定してみてください。つま先に両手が届けば合格です。もしパスできなかった場合、ゴルフのスイングにどのような影響をあたえるのでしょうか? 

レッスン書などにも、アドレス時には「お尻を突き出すように」、「お尻を上げて」といった表現がよくされていますね。これはアドレス時には、腰ではなく「股関節から曲げ前傾姿勢を作る」そして背骨を出来るだけ真直ぐに(ニュートラル)する事が大切であるという表現です。 腰、股関節、ハムストリング筋の柔軟性に問題がある場合、このアドレス姿勢をつくることが難しくなります。その結果、前回お話した「コンペンセイション(補正作用)」が生まれてしまいます。人間の身体は股関節から前傾姿勢が取れないとわかると、自動的に他の関節を使って前傾姿勢ととろうとしますので、どうしても腰または背中から体を曲げるのです。では、そのコンペンセイションの結果、どのような問題が生じるでしょうか? まず、アドレス時では1.猫背になる、2.体の重心が後方になる、3.お尻が低いアドレスになる、などの問題が起きます。スイング中においても前傾姿勢が保ち辛くなりますので、姿勢が崩れ、上体が伸び上がってしまったり、重心の位置がスイング中に変わってしまうでしょう。さらに、腰が曲がった状態では、体幹の捻転力が低下し、体感の捻転力によるパワーが生まれません。ですから、手だけで打とうと手打ちになるので、飛距離が落ちるだけでなく、ボールも真っすぐに飛びにくくなります。この様にハムストリング筋そして股関節の柔軟性はゴルフスイングに重要な影響をもたらします。さらにはゴルファーの体自体にも悪影響を与えてしまします。例えば腰痛です。 椎間板ヘルニアや腰痛に悩む多くの人がハムストリング筋、股関節の柔軟性に問題があるといっても過言ではないです。これは下半身の柔軟性の低下が腰への負担を倍増させているからです。腰を曲げた状態(猫背)でのゴルフスイングの繰り返しは、あなたの腰に大きな負担をかけているのです。慢性的な 腰痛に悩んでいるゴルファーの方は、ハムストリング筋、股関節の柔軟性に問題がある可能性が高いので、ぜひこのテストを行ってみてください。

次回はハムストリング筋の柔軟性を上げるトレーニング、そして股関節から前傾姿勢をとるためもエクササイズなどの例を挙げていこうと思います。


ハムストリング筋、股関節の柔軟性を向上させよう

前回のまとめ:立位体前屈テストでハムストリング筋、股関節の柔軟性がわかる。

今回は、ハムストリング筋、股関節の柔軟性に問題がある場合どのようなトレーニングで柔軟性を回復しゴルフのスイングに適した身体をつくるか、についてお話したいと思います。

柔軟体操として一般的によく知られているのは、 一つの筋肉類を20-60秒間静止した状態で伸ばすスタティックストレッチではないでしょうか。 このようなストレッチは、「筋肉を伸ばす」という目的には最も適しています。しかし、ゴルフスイングに必要な「ファンクショナル」な柔軟性の獲得にはスタティックストレッチだけでは十分でないのです。また、 図1のような方法で行うハムストリング筋のストレッチが最もポピュラーだと思います。しかしながら、股関節からではなく腰から曲げたり、もしくは反動をつけてストレッチをするという間違ったテクニックでストレッチをされている方を多く見かけます。そして長年、ハムストリング筋や股関節の柔軟性の低下から、アドレス時に背中から曲げることが既に根付いている方の場合、ハムストリング筋の柔軟性に加えて、その根付いた習慣を修正する事が必要です。そのためには 関節、筋肉をゆっくりとした反復動作によって徐々に伸ばしていくダイナミックストレッチが有効です。

図1Seated hamstring stretch
図2:スタティックストレッチ

それでは実際にどのようにストレッチをすればよいでしょうか? まず、ゴルフスイング時にはどういったポジションに体が置かれているか考えてみましょう。1.体重がかかった状態である、2.動作中である、そして3.背中は真直ぐにした状態(ニュートラル)、ということが挙げられます。 これらを考慮してゴルフスイングにふさわしいストレッチとして今回お勧めするのは、ハムストリング筋を伸ばすためのスタティックストレッチ(図2)、そしてハムストリング筋のファンクショナルな柔軟性を向上させるためのダイナミックストレッチ(図3)です。ストレッチエクササイズは、やり方を間違えない限り、行い過ぎるということは無いと思いますので、正しく行うことを心がけて、毎日3-5回を目標に行いましょう。

図3:ハムストリングダイナミックストレッチ

注意:エクササイズをするさい、ストレッチ以外の不快感または痛みなどを伴う場合は、専門家に診てもらうことをお勧めします。

仰向けに寝ます。ベルトまたはシーツのようなものを足に巻きつけ、腕を使い、膝をまっすぐにしたまま片足をゆっくりとハムストリング筋にストレッチを感じるまで上げます。ストレッチを感じながら20秒から30秒間、深呼吸をしながらストレッチしてあげましょう。これを5回ほど繰り返します。

足は肩幅ぐらいに広げ、つま先を真直ぐ前に向け、背筋を伸ばして立ちます。クラブを後頭部、背中、そして尾てい骨(赤円)に当てます(姿勢1)。そして息を吐きながらゆっくりと(5秒ぐらいかけて)股関節から前傾していき、ハムストリング筋にストレッチを感じましょう(姿勢2)。この時膝を曲げないようにします。そして息を吸いながらゆっくりと戻ります。クラブが三つのポイント(赤円)から離れないようにストレッチを行うことが重要です。これを15回ほど繰り返します。

足首、ふくらはぎの柔軟性テスト

前回のまとめ:  ハムストリング筋、股関節のストレッチで柔軟性を向上させる。

図1: half kneeling DF test

前回は股関節そしてハムストリング筋についてお話ししましたね。今回のテーマは、ハムストリング筋の場合と似たようなスイング欠陥を導く、足首・ふくらはぎの柔軟性です。特に女性の方で高いヒールを常に履いている方は要注意ですよ。まず図1,2の方法で柔軟性をテストしてみてください。このテストのどちらか(または両方)にパスできなかった場合、あなたのふくらはぎの筋肉、足首関節に問題があるといえるでしょう。

図2: Downward Dog test

前回にも触れましたが、アドレス時の姿勢は、膝、股関節を適度に曲げた前傾姿勢です。レッスン書などでは、「垂直線を引いた場合、その線が膝と前足を通るぐらい」膝を適度に曲げるという表現がされたりしますね。そして(アドレス時に作った)右膝、右股関節の角度を保ちながらトップスイングを作ることが良いスイングです(*注)。ゴルフにおいてあまり知られていませんが、身体の土台となっているのは足なのですから、足首の柔軟性はとても重要。そこに問題があると、ゴフルスイングを含む二足運動すべての動作に支障が生まれてしまいます。

では足首の柔軟性に欠陥があると、どのようなコンペンセイションやスイングの欠陥が生まれてしまうのでしょうか? 膝そして股関節を曲げて前傾姿勢をとる時、付随して必ず必要となるのが足首の背曲(つま先が持ち上がるように曲ること)です。つま先上がりのライでは、いうまでもなくフラットなライでスイングを行う以上に足関節の背曲が必要になります。もし足首が十分に曲げられない場合、身体は、例えば以下のようなコンペンセイションを行うでしょう。まず、膝を前方に曲げられないため、足が伸びきった状態になります。その状態で前傾姿勢をとろうとすると猫背を導きます。そして、重心を前方に置けないため、後方重心になり、お尻が低い姿勢になります。

図3:アドレス時での問題、C-posture

これらのコンペンセイションによって、アドレス時を例にとると、 (図3)のような欠陥が生まれます。またバックスイング時に右膝が伸びてしまう欠陥も典型的な例の一つです(図4)。その他にも、足は身体の土台ですので、他にも様々なコンペンセイション、スイング欠陥が生まれてしまいます。ですから、ぜひあなたの足首の柔軟性をまずチェックしてみてください。次回は足首の柔軟性を向上させるエクササイズに触れます。

図4:バックスイングでの問題

*注:右打ちにおいて

図1 Half-Kneeling Dorsiflexion Test

片膝をつきます。もう片方のすねが垂直になるようにし、その足の10センチ前にクラブを立てます(姿勢1)。前方の足の膝を、「かかとが浮かない」ようにクラブにタッチします。この時、クラブの位置を変えず、そしてかかとが浮かないで膝がクラブに付けばパス。

図2 Downward Dog test

足を腰幅、手を肩幅に広げ、四つんばいの姿勢になり、腕と太ももを床に対して垂直に保ち、つま先を立てます(姿勢1)。膝を床から持ち上げ、腰を真直ぐに伸ばしながらお尻を上げる(姿勢2)。この時、両足のかかとが浮かなければパス。


足首, ふくらはぎの柔軟性

前回のまとめ:  足首、ふくらはぎの柔軟性をチェックする

図1 腓腹筋(ひふくきん)、ひらめ筋

今回は、どのようなトレーニングをしたら足首、ふくらはぎの柔軟性が回復されるかについてお話します。皆さんお気づきかもしれませんが、前回行った柔軟性テストは一般的にいえばアキレス腱の柔軟性を見るためのものです。アキレス腱のストレッチといえば、ご存知の方、そしてやり方に心得がある方が多いのではないでしょうか。このアキレス腱はふくらはぎにある2つの筋肉—腓腹筋(ひふくきん)、ひらめ筋—の結合組織です(図1参照)。

そしてこの二つの筋肉の役目は、動作、膝関節の角度などにより変わってきます。話が難しくなるのでここではこれ以上は書きませんが、アドレス時の姿勢を保つという点において大きな役割を果たすのはひらめ筋で、ゴルフスイングの欠陥には、ひらめ筋の柔軟性が肝要。しかしながら腓腹筋(ひふくきん)の柔軟性は必要でないかというと、そうではないのです。腓腹筋(ひふくきん)は、前回号で取り上げたハムストリング筋と連動していますので、この腓腹筋(ひふくきん)の柔軟性を保つことも大切なことなのです。ですから、この両方の筋肉をしっかりストレッチしてあげましょう。二つの筋肉の特性から、腓腹筋(ひふくきん)は膝を伸ばした状態、ひらめ筋は膝を曲げた姿勢で柔軟体操を行うことで最もストレッチ効果が発揮されます。さてストレッチの方法ですが、前回行ってもらった柔軟性テストの方法はエクササイズとしても優れているので、この方法を取り入れて行いましょう。

図2: half kneeling stretch

図2のエクササイズは、ひらめ筋をストレッチさせ、かつ足首の関節の柔軟性を向上させるのに向いています。図3は腓腹筋(ひふくきん)のストレッチに有効です。加えて、図4,5の方法も日常生活の中でも簡単に行えるので、お勧めです。

足首の関節自体に問題がある場合、エクササイズだけではなく医師、フィジカルセラピストなどの専門家による治療が必要になったりします。ストレッチの痛みではなく足関節自体に痛みを感じる場合は専門家に診てもらうことをお勧めします。

図3: Downward Dog stretch

図2 Half-Kneeling Dorsiflexion stretch

両足のつま先が真直ぐ前を向くように片膝をつきます。もう片方のすねが垂直になるようにします(姿勢1)。前方の膝を、かかとが浮かないように真直ぐ前に倒し、ふくらはぎにストレッチを感じて下さい(姿勢2)。深呼吸を3回してゆっくりと姿勢1に戻りましょう。3〜5回繰り返します。偏平足をお持ちの方は土踏まずに小さなタオルなどをあてるとよいでしょう。

図3 Downward Dog stretch

足を腰幅、手を肩幅に広げ、四つんばいの姿勢になり、腕と太ももを床に対して垂直に保ち、つま先を立てます(姿勢1)。膝を床から持ち上げ、腰を真直ぐに伸ばしながらお尻を上げる(姿勢2)。この時、両足のかかとが浮かない様にゆっくりと息を吐きながらふくらはぎにストレッチを感じて下さい。深呼吸を3回してゆっくりと姿勢1に戻りましょう。3〜5回繰り返します。

図4: Calf stretch against wall

図4 Calf stretches against wall
(ストレッチ1)壁、または小さなステップなどに前足をつま先を真直ぐ上に向け当てます。膝を真直ぐに伸ばしたままゆっくりと骨盤を前方に移動させましょう。ふくらはぎにストレッチを感じながら深呼吸を3~5回しましょう。5回ほど繰り返します。
(ストレッチ2)ストレッチ1と同じ体勢で今度は前膝を前に曲げていきます。ふくらはぎの低い部分にストレッチを感じると思います。ストレッチを感じながら深呼吸を3~5回しましょう。5回ほど繰り返します


股関節の柔軟性はゴルフのキング

前回のまとめ:  足首、ふくらはぎの柔軟性を向上させる

これまで数回にわたり、下半身の柔軟性、稼動範囲の重要性をお話してきました。下半身の各関節、筋肉の柔軟性は大切なものですが、その中でも股関節の稼動範囲はとても重要で、柔軟性のキングといえるでしょう。股関節は、肩関節と並んで、非常に稼動範囲に優れた構造になっています。例えばひじを動かすといった場合、基本的には曲げる・伸ばすという動作しかありません。それに比べて、股関節は曲げ伸ばし、開脚・閉脚、回転、すべての動きに対応してます。股関節は高度な身体機能を要するゴルフスイングの土台となっており、稼動範囲の欠陥、またその動きを支える筋力の低下はゴルフスイングにコンペンセイション・欠陥をまねいてしまいます。前回お話したハムストリング筋、ふくらはぎ、そして足首の柔軟性は、そもそも股関節を円滑に動かすための基盤と考えて良いでしょう。

図1: Child Pose Test

股関節の柔軟性のトピックはとても多岐にわたるので、何回かに別けて話したいと思います。今回はハムストリング筋のトピックでも扱った、脚を前方に動かす「屈曲」そして脚を後方に動かす「伸展」について取り扱いと思います。まず、図1、図2の方法であなたの股関節の可動範囲をチエックしてください。

図2: Stand hip extension test

座ることの多い現代社会においては、股関節の可動範囲は狭くなりがちです。座っている態勢では股関節は屈曲しており、座ることが中心の生活をしていると、常に屈曲した状態に身体が馴染んでしいまいます。その結果, 股関節は柔軟性を失い、筋力が弱くなってしまいます。骨折または怪我をしギブスをはめられた足は3ヶ月後には思うように動かなく、力が入らないのと同じですね。そのようにして生じた組織の硬直・筋力の低下は、股関節と腰椎間のスムーズな動きを妨げるので、ゴルフにおいては、まず飛距離を生むパワーが弱くなります。スイングの土台となる股関節の柔軟性・筋力が失われた中で、身体は無理やりゴルフスイングを行おうとするので、コンペンセイションが起こり、ありとあらゆるスイング欠陥が生じてしまいます。図3の腰を必要以上に反らした、S-postureもその一例です。加えて、股関節を支える筋肉の中には、腰椎につながっているものもあります。ですから股関節の柔軟性の低下は腰に無理な負担をかけ腰痛の原因になります。このように、柔軟性のキングである股関節の柔軟性の低下はゴルフスイングに致命的なのです。

図3: S-posture

図1

Child pose test

足を腰幅、手を肩幅に広げ、四つんばいになり、腕と太ももを床に対して垂直に保ちます(姿勢1)。尾てい骨を後方に突き出すようにお尻を下げていきます(姿勢2)太ももが一番下の肋骨に付けばパス。

図2

Standing hip extension test

両足をそろえ、つま先を真直ぐにして立ちます。両手を骨盤下部にあて、股関節を前に押し出すように身体を後方に反らします。この時、膝を出来るだけ曲げないようにします。側面から見て、膝を曲げないで骨盤前方がつま先よりも前に出ればパス。


股関節の柔軟性はキング

前回のまとめ:  股関節は柔軟性のキング:屈曲、伸展をチェックしよう。

前回号で股関節の屈曲•伸展の柔軟性をテストしてもらいました。股関節の屈曲•伸展のテストにパスできなかった場合、どのようなエクササイズで柔軟性を回復したら良いのでしょうか? 

図1 single knee to chest

まず屈曲の稼動範囲についてですが、前回テストで行ったChild Poseはそのためのエクササイズとしても良いものです。ただ、稼動範囲が非常に低下している股関節には負担が大きすぎる恐れもあります。そのため、負担の少ない、図1のSingle Knee to Chestから始めたほうが良いでしょう。図1のやり方で太ももが肋骨下部に付くぐらいまでになったら、Child Pose(図2)にエクササイズを発展させるとよいでしょう。

図2: Child Pose stretch

次に股関節の伸展についてですが、股関節の伸展の低下に多大なる影響を与えるものとして、筋肉の収縮が挙げられます。前回のお話で股関節から腰椎をつなげる筋肉があることに触れたことを覚えていますか?この筋肉は腸腰筋(ちょうようきん)(図4参照)といいます。今日の社会では、起きている時間の大半を座って過ごす方も少なくありません。座っている状態では腸腰筋は短縮され、その状態が続くと、この筋肉は柔軟性を失っていきます。ですから腸腰筋の収縮は「座り社会」がもたらす悪癖のひとつなのです。腸腰筋の収縮により、まず腰椎への負担が増大し、腰痛になりやすくなります。また崩れた姿勢をもたらし、身体の歪みが生じます。ゴルフにおいては、スイングに必要なスムーズな下半身、腰の回転を妨げ、コンペンセイション・スイング欠陥を導きます。前回例にあげたS-postureも股関節と腰の筋力•柔軟性のバランスの崩れから生じる問題です。そのため、この筋肉のストレッチは、ゴルフスイング向上、腰痛の防止、体の歪みの矯正に欠かせないものなのです。ストレッチの方法は幾つか方法がありますが、図3の方法でまず行ってみて下さい。特に座る時間の多い方は、暇をみては立上がり腸腰筋をストレッチしてあげましょう。

図3: hip flexor stretch

ジムなどで、腰を過度に反らしたり、腰をひねったりと間違った方法で行っている方を見かけます。ストレッチは「正しく行うこと」で初めて効果を発揮しますので注意してみてください。

注意:股関節の可動性を低下させる要因としては、筋肉の柔軟性の低下、関節周囲の軟部組織の硬化、関節炎、骨格(先天的・後天的)の形などがあります。エクササイズをするさい、不快感または痛みなどを伴う場合は、専門家に診てもらうことをお勧めします。

図1: Single Knee to Chest
両足を伸ばし、仰向けに寝ます。片方の膝を抱え、背中が床から浮くこと無く、息を吐きながら真直ぐに胸に引き寄せます。深呼吸を3回して元の位置に戻します。これを5回繰り返しましょう。

図2: Child pose
足を腰幅、手を肩幅に広げ、四つんばいの姿勢になり、腕と太ももを床に対して垂直に保ちます(姿勢1)。尾てい骨を後方に突き出すように息を吐きながらお尻を下げていきます(姿勢2)。深呼吸を3回して元の位置に戻ります。これを5回ほど繰り返します。

図3: Hip Flexor Stretch
椅子などのある程度高さのある台に、歩幅ぐらい脚を開き片足をのせ、胸を高く保ち姿勢に気をつけます。後脚のつま先、膝をまっすぐ前に向けます(姿勢1)。そして後脚の股関節前方に手を当て、身体全体を前に移動させるように体重移動します(姿勢2)。この時、背骨を丸めたり・反らしたり・またはひねったりしないようにしましょう。深呼吸を3回して元の位置に戻ります。これを5回ほど繰り返します。

 

股関節の柔軟性はキング-内旋編

今回は股関節の内旋(脚が内側に回るのこと)についてお話します。

股関節の内旋は、トップスイング、そしてフォロースルーにおいて非常に大切な役割をします。図1のテストで、股関節の内旋の稼動範囲を確認してみてください。あなたの股関節の内旋の稼動範囲は30度以上あったでしょうか。 ちなみにPGAツアー選手の股関節の内旋値は、平均で36度以上となっています(TPI参照)。

股関節の内旋のうち、そのうち右股関節の内旋はトップスイングに、左股関節の内旋はインパクト、フォロースルーに主に関係しています。まず、右股関節の関係するトップスイングからお話します。ゴルフスイング教本では、トップスイングは「肩が90度、腰が45度」回転していることを推奨していることが多いですね。この45度の腰の回転の、大部分は右股関節の内旋によるものなのです。

図1hip internal rotation test

図1のテストをパス出来なかった場合、レッスンを受け「腰を45度回転させトップスイングを作りましょう」と言われて頑張っても、逆に「コンペンセイション」が生じてしまいます。あなたの右股関節は腰を回すだけの土台が無いのです。コンペンセイションの一例には、「スウェイ」―右足の力を抜き、右側の壁を無くしてしまい、身体全体を流してしまうこと―などがあります(図2)。 

図2Sway

スウェイにより、右股関節を軸とした上半身と下半身の捻転力が弱まり、スイングのパワーが低下してしまいます。また、右足の軸が一定しなくなるため、ボールも曲がりやすくなります。

次に、左股関節の関係するインパクトからフォロースルーそしてフィニッシュについてお話します。左股関節がうまく回転出来ない場合には、左サイドの壁が崩れてしまう「スライド」(図3)などのスイング欠陥が起こります。またスムーズな腰の回転が妨げられるので、飛距離も生まれず、ボールが曲がる原因となります。

図3Slide

このように、無理やり腰だけ回転させようとするとスイングが乱れ、ゴルフのスコアも伸びなくなってしまうのです。では、股関節の内旋に問題がある人の場合、どのようにしてゴルフのスイングを改善したらよいでしょうか。

アプローチには2つあります。

1.コンペンセイションのない、スイングを心がける:「腰が45度」という理論は捨て、自分の身体に合った、小さなトップを作る、というものと

2.そもそもの身体能力の土台をつくる:エクササイズ、ストレッチによっ股関節の稼動範囲を広げ「腰が45度」回る身体能力の土台を作る、といった方法です。

股関節の稼動に関して、スイングを離れて怪我という視点で診てみましょう。ボールを打つためにバックスイングでためられた力は、インパクトそしてフォロースルーで左股関節で受け止められなければなりません。股関節の内旋稼動範囲に支障がある場合、特に左膝、左足首、腰などの箇所に大きな負担が掛かり、怪我の原因となります。それらの箇所に違和感を感じている方は、ぜひ股関節の内旋をチェックして見てください。

次回は股関節の内旋を向上させるためのエクササイズに触れたいと思います。

注意:股関節の可動性を低下させる要因としては、筋肉の柔軟性の低下、関節周囲の軟部組織の硬化、関節炎、骨格(先天的・後天的)などがあります。エクササイズをするさい、不快感または痛みなどを伴う場合は、専門家に診てもらうことをお勧めします。

図1:Hip Internal rotation test
仰向けに寝ます。両こぶしを両膝の間に挟み、足を広げます。この時に両膝がこぶしから離れないようにします。身体の中心線と両脚のすねが30度以上開けばパス。*ヨミタイムの新聞を左の図のように折り曲げると30度角が作れます。

図2:Sway
バックスイング時に身体の一部がアドレスで作った右の壁を越えてしまうこと。

図3:Slide
インパクト、フォロースルーで身体の一部がアドレスで作った左の壁を越えてしまうこと。

股関節の柔軟性はキング-内旋編

図1hip drop

今回は股関節の内旋稼動範囲を向上させるエクササイズです。はじめにお断りしておきますが、このエクササイズは内旋の稼動範囲が低下している股関節には非常に負担がかかります。股関節はデリケートなので、無理、焦りは禁物です。痛みのでない程度で行い、時間をかけゆっくりと稼動範囲を向上させましょう。まず、図1のエクササイズで内旋の稼動範囲を徐々に広げていってあげましょう。背中が床から浮き上がらないようにお腹に力を入れ、ゆっくりと行うことが大切です。

図1のエクササイズの後、図2の方法― 前回、股関節内旋の稼動範囲を図るテストで用いました ―を活用すると良いでしょう。

図2hip wind shield

抵抗の少ないゴムバンドなどは、より効果的にこのエクササイズが出来るのでぜひ活用しましょう。毎日欠かさず行えば、数週間〜数ヶ月で徐々に稼動範囲が広がるでしょう。この二つのエクササイズと平行して梨状筋(りじょうきん・図3参照)そしてそれに付随した筋肉群のストレッチも大切です。梨状筋の収縮•硬直は股関節のスムーズな内旋動作を妨げるだけではなく、坐骨神経を圧迫し坐骨神経痛の原因にもなることもあります。

図3:梨状筋(りじょうきん)

ですから、ふだんから図4の方法で梨状筋をストレッチしてあげることが大切です。こうした方法で、ある程度股関節の内旋稼動範囲が得られたら、体重をかけた状態で行う図5の方法に移行してみましょう。この図5の方法はゴルフのスイング時に類似した状態で行えるのでスイングの向上にとても有効的ですが、逆に間違った方法で行うと膝や骨盤・腰に負担をかける恐れがあります。ですからここでも焦りは禁物。図1~図4のエクササイズを毎日しっかりと行い、十分な稼動範囲を得てから図5の方法を取り入れていきましょう。

図4:梨状筋ストレッチ
図5:stand hip stork

股関節の稼動範囲を広げることは容易なことではありません。毎日、1年間行っても1〜5度ぐらいしか内旋の稼動範囲が改善されないかもしれません。しかし、股関節の柔軟性はゴルフスイングのキングです。その柔軟性を無理なく向上させるためにはそれだけの時間と苦労が必要なのです。あきらめないでやり続けて下さい。バックスイングで身体が右側に流れることなく、右脚の内側に体重が乗り、パワーが生まれる様になった、または、フォロースルーで左脚にスムーズに体重が乗り、左脚の軸上でスムーズに回転出来る様になった、と感じる日が必ず来るでしょう。(注: 右打ちにおいて)

注意:股関節の可動性を低下させる要因としては、筋肉の柔軟性の低下、関節周囲の軟部組織の硬化、関節炎、骨格(先天的・後天的)などがあります。エクササイズをするさい、不快感または痛みなどを伴う場合は、専門家に診てもらうことをお勧めします。

図1Hip Drops 
両足を肩幅よりも多少広げ、膝を90度ぐらい曲げて仰向けに寝ます(姿勢1)。かかとを床に付けたまま、両膝をゆっくりと左右交互ににたおします(姿勢2,3)。この時肩そして腰が床から離れないようにお腹に力を入れながら行いましょう。左右10回を1セット、2~3回繰り返します。

図2hip wind shield
仰向けに寝ます。膝を90度に曲げ、両こぶしを両膝の間に挟み、足をゆっくりと閉じ開きします。この時、膝の角度を保ち、こぶしから膝が離れないように行うことが大切です。抵抗の少ないゴムバンドなどは、より効果的にこのエクササイズが出来るのでぜひ活用しましょう(図の位置にゴムバンドを取り付けると良いでしょう)。30秒ほど繰り返し、2~3セット行います。

図3梨状筋(りじょうきん)

図4梨状筋ストレッチ
仰向けに寝ます。片足をもう一方の脚の膝に掛け、股のあいだから腕を通して、膝の裏側を持つようにします(姿勢1)。そして、その膝を両手で胸のほうにゆっくりと引きます。頭はリラックスし床に付けたままでよいでしょう(姿勢2)。右側のお尻にストレッチを感じると思います(写真において)。ゆっくりと深呼吸を3~5回します。これを両側3~5回繰り返しましょう。

図5stand hip stork
右脚で片足立ちになり、図のように左脚を曲げます。この時ゴルフクラブまたは壁などでバランスを保つとよいでしょう(姿勢1)。胸そして右膝を真直ぐ前に向けたまま、ゆっくりと左脚を右側に回していきます(姿勢2)。ゆっくりと10回ほど繰り返し、両脚交互に2~3回繰り返します。


番外編:ゴルフスイングについて「身体のコンペンセイションが無いスイングが良いスイング」

これまで数回にわたって、下半身の柔軟性、関節の稼動範囲の必要性をお話してきました。次は体幹、上半身の柔軟性、関節の稼動範囲編をお話ししますが、その前に番外編としてスイングのことをお話ししたいと思います。

私はゴルフスイング理論に関しては専門ではありません。トップの位置ががこうあるべきだ、ダウンスイングにおいてのクラブの軌道がこうだ、というようなことには特にこだわりがありません。機能的に体の使い、自身の骨格や身体能力に合った、コンペンセイション・スイング欠陥の無いスイングが良いスイングだと考えております。

近年レッスン書などが増え、スイング理論に触れる機会も多いかと思います。残念ながら、スイング理論に「間違えた解釈」をしているアマチュアプレーヤーの方を多く見かけます。例えば、「体の正面でボールを打つ、下半身は使わない」、といったスイング理論の表現についてです。下半身を使いパワーを生み出すのが、ゴルフスイングだけでなく、野球や砲丸投げなどの様々なスポーツにおいて、人間の自然な動きです。「下半身を使わない」という表現はおそらく過剰な(一世代前に流行った)「ニーアクション」を極力減らすため、または下半身の不安定な上下、左右の動きをなくすために使われた表現だと思います。「体の正面で打つ」、という表現も右足を軸に体が開きすぎてしまう「野球打ち」の矯正または、初心者の方で空振りばかりしてしまう方への一時的措置だと思われます。これを言葉の通りとらえて、無理に腰や肩の回転をスイング中に止めたり、下半身を使わず上半身だけでダウンスイングを行おうとしたりしている方をよく見かけます。

理論にとらわれ、下半身を無理に使わないように、棒のように突っ張ってみたり、腰の回転を無理に止めたりする動きは身体の自然な動き・能力に反しており、怪我の原因、上達の妨げになります。レッスン書を読んだり、レッスンプロに指導され一時的な「ドリル」として腰の回転を抑えてのスイング、上半身始動でのスイングをすることはあると思います。その場合、言葉の表現だけにとらわれず、何故そういったドリルをするのか、最終的に目指しているスイングはどういったものなのか理解して、行うことが大切だと思います。

図1:Two cheak impact position

プロ、上級者のスイングをみて100%共通する点はまず1.ダウンスイングは下半身始動である。2.腰の回転はフィニッシュまで回転し続ける(図1)、ということです。その結果インパクト時の写真を後方線上から見ますと必ず腰が回転している状態(2つのお尻が必ず見えると思います)でインパクトをむかえています。

最新のゴルフ理論を取り入れたスイング改造はゴルフの上達に必要なものです。しかし、ゴルフのスイングはあなたの身体能力を基に成り立ちます。また、どのようなスイングを目指すにしろ身体の基本運動パターンは常に同じだということを理解してスイング改造を行いましょう。

図1:Two Cheek Impact Position