健康エイジングの勧め(3)「運動の取り組み方」理学療法士髙田洋平
運動の取り組み方
前回までに、人の体の怪我や痛みの原因となる組織疲労とその蓄積について(第一回)、疲労的損傷の個人差を生む可能性のある遺伝的、栄養的、ストレス的、そして運動的要素(第二回)についてお話ししてきました。第三回となる今回は、健康エイジングを助ける運動にマトを絞って、運動目標、種類、負荷、頻度、実際に行なう際の注意などいくつかのトピックスに分けて話を進めていきたいと思います。
運動の目標
健康エイジンングの為の運動とは何かと考えた時、その目標はいかに「効率的な体」を作るかだと思っています。筋力がどうだとか、柔軟性がどうだとか、または肺活量がどうだとかはあまり意味をなしません。人の体というのは進化の過程で実に素晴らしくデザインされています。その体を効率的に動かすことで、体への負担を減らし、細胞組織の停滞を防ぎ、歳を取っても健康的に活動することが出来ると考えています。
残念ながら現代人は昔の様な自然環境の中で育つことがなく、幼少期からコンクリートの上で育ち、座りっぱなしの生活習慣を強いられています。ですので、いつのまにか日常の体の動きが本来の効率的な動きから外れて「非効率的」となっています。それをまず直さないで運動をすれば非効率的な体の使い方のくせが強まり、どんどん「怪我のしやすい」体になっていきます。まずは失ってしまった「効率的な体」をいかに取り戻すかを目標に、運動をすることが大切です。もちろん、「効率的な体」も個人差がありますが、自己流に頼るよりはこうした知識に精通した人に運動プログラムを作ってもらうと健康エイジングに一歩近づくのではないでしょうか? そして簡単なウォーキングなどを組み合わせれば十分な健康エイジングのための運動プログラムが出来るはずです。
運動(エクササイズ)の種類
私の元にはよく「どのようなエクササイズをしたらよいですか? ヨガは? ピラティスは? ランニングは? 筋トレは? ストレッチは体に良いのでしょうか?」などなど運動に関して様々な質問がきます。体の専門家、そして運動の専門家として一概に「これをやりましょう」というものはありません。あまりにも個々人の要素が多いので答えようがないのです。栄養士さんに何を食べたら健康になれますか? と聞いているのと一緒です。バランス良く食べましょうぐらいしか言えません。Aさんには良いエクササイズでもBさんには怪我の原因になることだってあります。
ストレッチとしてよく知られるヨガの例えでお話ししましょう。ヨガは全ての人に良いわけではありません。ヨガ(ストレッチ)がある人に適しているかどうかは、その人の体の硬さ(体を形成するコラーゲン繊維の硬さ)の影響をうけます。体の硬さはある程度遺伝で決まっていて、生れつき関節や筋肉が硬い人もいれば柔らかい人もいます。体の硬い人が必要最低限の可動域を保つためヨガなどでストレッチを定期的に行なうのは理解できます。しかし、生れつき体が柔らかい人がさらにストレッチをし筋繊維を伸ばそうとすると、関節に負担をかけ怪我に繋がることも少なくありませんし、あまりにも筋繊維が伸びきった状態になり体が不安定になり、無意識のうちに筋肉を硬直させることもあります。 さらに続けると、 ヨガやストレッチをやればやるほど肩が凝ったり、筋肉が張ったりと悪循環なことも生じます。
また筋トレについても同じことが言えます。遺伝的に筋繊維が硬く筋肉質な方が筋トレをすれば体はどんどん硬くなり、可動域を保つことができず効率的な動きが出来なくなってしまいます。
まずは「自分の体を知る 」これが大切です。テレビや雑誌でやっていた健康エクササイズがあなたに合うとは限りませんよ。
運動の負荷
以前、イチロー選手が「ライオンは筋トレをしないでしょ」と話していました。百獣の王と言われる強健な体をもつライオンは生れつき強健であり、筋トレをして筋肉を鍛える必要はないということで、要するに自分に合ったトレーニングが必要、ということを意味しています。どうも最近は自分に見合わないエクササイズをして、人間に産まれながらライオンになろうとしている人や、蛇になろうとしている人があまりにも多いです。「健康のために」エクササイズをする場合で、私は5キロ以上のウェイトを使った運動が必要だと考えたことはありません。ジムにあるようなウェイトマシーンを必要と感じたことはありませんし、ランニングにしても5キロ以上のランニングは体に良いとは思いません。
筋肉隆々の方がカッコウがいい、ベンチプレスで何キロ挙げたい、マラソンを完走したい、などなどは健康とはかけ離れた「やりすぎ」の世界です。好きでやっていることに対して「やるな」と言っているわけではありませんが、健康のために鍛えている、または走っているという認識はやめた方がいいと思います。何事もやりすぎは健康にはよくありません。
運動の頻度
同様に運動の頻度にも個人差があります。体のサイクルは、幼少期から慣れ親しんだ習慣に基づいて作られているからです。例えば、私は若い時からスポーツを含めなど様々な運動をしてきて、体を動かすのが習慣的になっています。ですので、無理にでも体を動かす機会を作り運動した方が体のサイクルが良いです。逆に幼少期から読書などに没頭し、運動など無縁な生活をしてきた人は、例えば、週に何回かウォーキング運動を取り入れたり、ラジオ体操第一を行なうとかで十分ではないでしょうか。
また無理な頻度で運動を取り入れると継続してできるかどうかを考える必要があります。気が向いたときにだけ 運動をするのはあまり賢明ではありません。また仕事などが忙しくなるとすぐできなくなる運動プログラムを作るのも賢明ではありません。以前の記事でも書きましたが、ここ数年の日本で流行しているハードな筋トレを短期間に一気に行ない体を絞るという方法は、筋膜の癒着や軟骨のダメージなど必ず体に負の蓄積を残していきます。その様な運動であれば初めからしない方がむしろ健康的です。自分の生活習慣、そして社会的責任などを考慮して、無理せず継続的に行なえることから始められるプログラムを作りましょう。私のクライアントの方には15分ぐらいで出来る三つから五つぐらいの簡単なエクササイズをご提案する様心がけています。15分で出来る運動であれば継続して出来るはずです。
自分の体に耳を傾ける
また運動を実際に行なうにあたり、「自分の体に耳を傾ける」ことは大切です。例えば、筋肉痛は体が急激な運動の負荷に耐えられていないので起きますので、もちろんやり始めの多少の筋肉痛は致し方ないとしても、起きない程度の負荷からゆっくり始めた方がもちろん好ましいです。体に違和感を感じるというのは運動自体が合わないか、負荷が大きすぎ、損傷につながっている可能性がありますので、昔の様に「気合で乗り越える」みたいなことは避けてください。 ストレスや損傷の蓄積になり最終的に怪我に繋がる可能性があります。
まとめになりますが、健康エイジングのための運動とは、まず自分の体をよく知り、「効率的な体」を手にいれるために、自分の習慣に基づいた運動程度を心がけ、継続的に行なえるものであり、実際にする際には無理をしないということが大切になります。
もちろんいくら良い運動をしても、それで普段の生活からくる負荷を帳消しにすることはできません。例えば週末に3時間運動を行なったとしましょう。しかし、その他の日は1日12時間コンピューターの前に座りっぱなしだとすると、週末の運動だけでは12時間座りっぱなしのストレスを無かったことには出来ません。寝溜めが出来ない様に運動溜めも出来ないのです。
人生 100年時代です。元気に体を動かし、好きな趣味などを行ない楽しんで行きたいですね。健康エイジングの為に今からでも心がけられることは多いです。 今から少しずつ運動の取り組み方や考え方に向き合っていくと、将来的に随分と違った人生を送れるのではないでしょうか?
健康エイジングを運動的要素の視点から見た時、まず「自分の体をよく知る」、「効率的な体」を手にいれる運動を心がける、自分の習慣に基づいた運動程度を心がける、継続的に行なえるプログラム、最後に自分の体に耳を傾け無理をしないということを心がけると良いでしょう。
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