バックパックの勧め

こんにちはFuncPhysioの高田です。みなさん出かける時にバッグは何を持っていきますか?私は職業柄、人が歩いている姿を見るとふと分析するのが癖になっていますが、持っているバッグよって歩き方や体の使い方が変わることをみなさんお気づきでしょうか?「健康エージング」の回でも少し触れましたが歩くことは一般的には大変体に良い運動です。しかしながらその歩き方によっては逆に体に負担をかけ、悪い癖がついてしまうもあります。今回は、まず簡単に歩くことについてまず触れ、お出かけ時のバッグ選びとそれによる身体への影響についてお話ししていきたいと思います。

歩くと一言に行ってもそれは様々です。単純にA地点からB地点までの移動手段として歩くという言葉を使うこともあるでしょう。また運動のため、健康のために歩くこともあります。効率的に正しく歩いている方もいれば、非効率的に体に負担をかけながら歩いている人もいます。単純に歩くと言ってもその動作は非常に複雑なもので、下半身から上半身、骨盤や背骨まで含めた体全てを使う全身運動動作です。そのため筋肉の使い方や関節の使い方など細かく見ていくと人それぞれ違いますし癖もあります。100人いればその歩き方は100通りあると言っても過言ではないです。みなさんも遠くの方から歩いてくる人を見て顔は見えないのに「あ、誰々さんだ」とわかってしまった経験はないでしょうか?それだけ歩き方というのは個性があるものです。上手に効率的に歩いている人の歩き方は見ていて美しさを感じ、感動すら覚える時もあります。ここでは、一つ一つ歩き方を解説するのは紙面の関係上無理ですので、 今回は、歩く時に「手を振る」という重要性にしぼってお話を進めていきたいと思います。

もちろん歩いてある地点から他の地点まで移動する際物理的に動かしているのは脚です。例えば上半身や腕を縄で縛られたとしても脚さえ動けば、物理的には歩くことは出来ます。しかしそれは私の意味する「歩く」とは異なります。私の指す「歩く」という動作は骨盤や胸郭から作り出される動きが、左右の腕脚の振り子運動を生み出し、スムーズな動きに繋がり、全身が「二重螺旋の運動連鎖」から生まれる無駄のない動作のことを指します(図1)。ちょっと言葉で説明すると難しいですよね。要するに振り子のように四肢を動かし、螺旋状の運動エネルギーをうまく使い、必要最小限のエネルギーで最大限の動作を得ているのが私のいう効率的な「歩く」ということです。こうした運動連鎖は全身運動であり筋骨系だけでなく、内臓や心肺系などにも良い刺激をあたえるため、健康にも大変効果的です。決して勘違いして欲しくないのが、筋肉を目一杯使い、エネルギーを大量に使い、筋力で押し進むことが良い歩き方では無いということです。我々は進化の過程で必要最小限のエネルギーで最大限の運動(歩き)を得られる様に進化してきたのです。兵隊の歩行、モデル歩きなどは本来人間が進化の過程で得てきた本来の「歩く」という動作とはかけ離れたもので、決して効率的なものではありません。

歩行の二重螺旋:図1、二重螺旋の運動連鎖。歩いている時の右手の振り出し、そして左手の振り出しを上から写真で撮ったものを合成した写真です。写真では解りづらいかもしれないですがの背骨を中心とした運動連鎖が見て取れると思います。

残念ながら現代社会ではこのスムーズでエネルギー効率の良い運動連鎖から生まれる「歩く」という動作の妨げになってしまう要因が多々あります。その一つが腕を振らないことです。本来歩くときに腕を振るということは誰に教えられるわけでもなく、ハイハイなどを通して成長の過程で自然に身についていくことです。歩き始めのヨチヨチ歩きの時は上手く歩けなくとも、そのうち体幹を捻り、腕を振り、効率的な運動連鎖を覚え自然と「歩く」動作を覚えていきます。しかし昨今この自然な振り子の様に振られる手の動きを妨げるものが多すぎます。例えば小学生の時から両手に荷物を抱え、歩くときに脚だけで歩いている幼児。大人になっても片手にカバンをもったり、バッグを肩に担いだり、ポケットに手を入れていたり、片手でスマホを見ながら歩いたりと様々な理由で腕を振ることを制限し、脚だけで押し進むように歩いている人たちが多いのは、理由は後述しますが、見ていて大変恐ろしいことです。

歩くときに腕を振らないというのは単純にエネルギー効率が悪ということだけではありません。手を振らないということは自然に発生する体の流れに逆らい、その動き(運動エネルギー)を無理やり止めているわけです。その反作用で発生する筋肉への負担、関節への負担、さらには脊柱への負担は相当なものです。例えば試しに腕を振らず、両腕を固め歩いてみてください。体の重心位置が上がり、肩周りに力が入り、首に負担がかかることが感じられると思います。

歩くことは大切なことですが、それ自体が体に負担をかける恐れもあることはご理解いただけたでしょうか?私の知人にも「今日は何万歩歩いた!」とあたかも歩いた歩数が健康に良いことをしたことの様に伝えてくる方が多いですが、歩数よりもその内容の方がより大切な時もあります。例えばショッピングモールに行って歩いた場合ですが、ハンドバッグ(またはショッピングバッグ)を片手に持ちタラタラと歩いても、それは私の言う「歩く」ということとは全く違ったものです。逆にその様な歩き方で長時間歩けば体に負担がかかり、膝や股関節、腰、さらには首肩などを傷めてしまう原因にもなりかねないです。歩くときに振るということはそれだけ重要なことなのです。

腕を振って歩くことの重要性をご理解していただいたところで、ここでバッグのお話をしたいと思います。普段さりげなく持つバッグによってこの自然な運動連鎖が大きく影響を受けます。先に話したハンドバッグ、トートバッグ、ショッピングバッグなどは特に影響をおよぼします。こうしたバッグを肩にかける、または手に持つと腕を普通に振ることは出来なくなってしまいます。ですのでお出かけの際にはバックパック、または小さめのクロスボディーのバッグをお勧めしています。これらのバッグであれば両腕を自由に振ることができますし、歩くときの自然な動作が妨げられることも最小限で済みます。

バッグを持たない状態で今度一度手ぶらで歩く時に自分の歩き方に気を配ってみてください。ちゃんと腕は振れていますか?首肩はリラックスできていますか?骨盤と肩は上手くねじれ運動ができていますか?右左右左と重心移動がスムーズに出来ていますか?余計な力が入ってないですか?普段何気なく行なっている歩くと言う動作に意識を傾けると色んなとことに気づくのでは無いでしょうか?そして次にカバンを片手に持って歩いてみてください。感じるはずですスムーズな動きが妨げられること、余計な緊張が生まれること、そしてより多くのエネルギーを要することを。もちろんファション性でバッグを選ばなくてはいけないシチュエーションもあるでしょうし、荷物を持たないといけない時もあると思います。しかしその必要性が無い時は極力バックパック(またはクロスボディのバック)にして腕を大きく振って歩くことを心がけてみてください。意外とそれだけで今まで悩んでいた痛みから解放されることもあるかもしれません。

図2、

腕の振りを妨げ自然な運動連鎖が出来なくなるバッグの例;1ハンドバッグ;2ショッピングバッグ;3トートバッグ;4ショルダーバッグ;5バッグではありませんが手をポケットに入れて歩く;6本文中には紹介しませんでしたがキャスター付きバッグは重い荷物を運ぶ時には体の負担が少なく良いのですが、長い距離を歩く時の使用は気をつけましょう。

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