髙田洋平 理学療法士による医療的−美容的健康ダイエット
ダイエットの定義は色々ありますが、一般的には体重を減らすことでその成功を測ることが多いようです。短期的に体重を減らすダイエットは健康への弊害をもたらすことが多く、近年は、健康への考慮をしながらダイエットをする方法が注目されています。ここ数年の日本での流行りは、食事制限とハードな筋トレで短期間に一気に痩せようという方法です。確かにアドレナリン全開で筋トレを一時間またはそれ以上行ない、食事管理を同時に行なえば短期間で体重は確実に落ちますし筋肉も付きますので、「健康的に」痩せたと思う人が多いようです。しかし、本当にそうでしょうか?
短期間で付けた筋肉は短期間で落ちます。というのも筋繊維を構成する細胞の数自体は短期間ではあまり変わらないからです。短期的筋トレでは、単に細胞の肥大が起こる結果筋肉の量が増え、筋肉がついたようになりますが、筋トレをやめればすぐ元に戻ってしまいます。ただ筋肉が落ちるだけなら良いのですが、短期的な減少は筋肉、筋膜などの軟部組織の硬直、癒着を引き起こしますから、この方法で痩せる場合、その生活習慣を継続することが必要です。あるいは徐々にエクササイズの量などを減らし通常の生活に戻すなど細心の注意を払いながら行なわないといけません。なぜなら リバウンドの危険はもちろんのこと、それ以上に知らず知らずのうちに先ほどの軟部組織の硬直を含め様々なダメージを身体の中に蓄積させているからです。怪我の多いのも無理をした短期筋トレダイエットの特徴です。こうした急なエクササイズにより肩や首、腰や股関節などを怪我し私の元を訪ねて来る患者さんがあとを絶ちません。
また、筋肉が肥大しても脂肪は落ちないという問題点もあります。確かに筋肉のトーンが無く、ユルユルの状態というのであれば「引き締める」という目的で筋トレは一理ありますが、筋肉が付いたからといって脂肪が落ちるわけではないのです。お腹の脂肪を落とすために腹筋運動 (sit-up) をする人をよく見かけますが残念ながら意味があるとは言えません。アメリカの複数の大学機関でも体の部分痩せができないことは報告されています。また腰痛との関連から米軍が sit-up を廃止したことは近年有名な話です。
私は健康的なダイエットとは、体の一つ一つが機能的に効率よく動くようになること、だと思っています。そのことによって最終的に体のプロポーションがよくなり、細胞が健康な状況に保たれ、代謝が上がり、脂肪も燃焼しやすく、太りづらい体になることがよいダイエットだと考えているわけです。
骨盤を例にとってお話ししてみます。骨盤は身体の中心で直立二足歩行動物の人間の土台です。骨盤の位置は様々な筋肉の動きに影響を与え、その位置によってはある筋肉が使えたり使えなかったりします。具体的にいうとヒップの外周りが異様に太い人は、骨盤が前傾していて骨盤の動きがロックされてしまっていることが多く、その結果股関節の前と横にある筋肉群しか使えず、その筋肉群がどんどん肥大してしまう傾向があり、逆にお尻(臀筋)の筋肉群が「使えなく」なってしまいます。これは骨盤の位置から「ここの筋肉しか使えない」という状況が起きてしまうので意識的に使おうとしても無理ですし、ジムに行ってお尻の筋トレをすれば自然と良くなるという問題でもありません。その状況で生活や運動を繰り返しているとその「クセ」がさらに深くなって行きさらにひどい状況になって行きます。筋肉の付き方などがおかしくなると、たとえダイエットをして体重が落ちても何かプロポーションがおかしいといった状況に陥ってしまうのです。さらに使えていない組織は硬直し、血流が滞り、うっ血したりむくんだりします。すると新陳代謝がうまく出来なくなって細胞や組織が不健康な状況に陥り、代謝が低くなりエネルギー消費が滞ってしまいます。 こうしたことから痩せにくい体質になってしまうのです。人間のエネルギー消費の60%以上は基礎代謝ですので、代謝が滞ると運動をしても体重の減少にはつながりにくくなるということになります。
そこで骨盤の位置や筋肉の在り方をきちんと査定してもらい、そこから徒手療法などで骨盤ズレや骨盤周りの関節や軟部組織の問題点を治療し、特殊なトレーニングを通して正常な骨盤の動き、筋肉のバランスのとれた活動、そして効率的な体全体の動きを取り戻して行くことが大切です。そのことにより骨盤周りの組織も細胞単位で正常に機能していきます。そして、筋肉の付き方がバランス良く美しくなり、代謝も上がり、最終的には美しいプロポーションと痩せやすい体が手に入る、というわけです。
残念ながら、骨盤の状態などの査定は専門家でないとできません。もちろん専門家のアドバイスを受けた上で実際にエクササイズをするなどの努力は個人にかかってきますが、いろいろなテストをしないと骨盤の状況はわかりません。ジムのトレーナーの方の専門とも違いますし、我々フィジカルセラピストでも特殊な徒手療法や骨盤関係のトレーニングを数年間経ていないと専門的な知識は得られないのです。
この方法によるダイエットでは短期間に数キロも痩せるということはなく、6ヶ月、1年というスパンで徐々に痩せていきます。しかしながら私はこの方法でのダイエットに取り組むことは時間こそかかりますが、体重が落ちるだけのダイエットに比べ、体の内側から健康にして、より効率的な体を手に入れ、その結果痩せていく、無理やストレスなく恒久的に痩せられる優れた方法だと考えます。また骨盤機能は内臓機能とも深く関わって来るので、内臓の問題、例えば生理痛や消化器系機能の悩みなども改善することが多いことも健康なダイエット だという理由の一つです。
今回は骨盤に焦点をあてて話を進めてきました。体の土台となる部位で腹部や股関節などの働きに大きな影響を及ぼすからです。しかし骨盤だけチェックすれば良いというものではありません。人間の体は全て繋がって動作します。一流アスリートやスタイルの良い芸能人などの動きを見ると全身の動きが流れるように美しいですよね。体の各部の一つ一つが効率的に使えている証拠です。そうした全身のパーツ一つ一つを効率化していくことにより、健康的なダイエットに成功することができると考えています。