軽くても後々怖い「捻挫(ねんざ)」の本当の問題

こんにちはファンクフィジオ の高田です。今日は足首の捻挫についてお話をしていきたいと思います。捻挫は多くの方に馴染みのある怪我では無いでしょうか?捻挫とは靭帯とその周りの軟部組織の損傷を指します。今回は一番起こりやすく皆さん馴染みのある捻挫である、足首を内側に捻って生じる足関節外側の靭帯(前距腓靱帯)の捻挫についてお話をしていきます(図1)。

私も子供の時にスポーツなどを通して何回か捻挫をした経験があります。皆さんや皆さんの周りにも「子供の時に」「何十年も前に」とか「どっちの足か忘れてしまたったけど」などなど捻挫を過去に経験した方は多いのではないでしょうか?スポーツをしている際ではなく街中を歩いているだけで足を捻ってしまう方も大変多いです。とくにヒールを履く方は捻りやすいですね。

捻挫はこのようにあまりにも身近な怪我ですが、皆さん、捻挫をキチンと治していますか?「腫れが引いたから」とか「痛みがなくなったから」と勝手に治ったと思っていませんか?実は捻挫はその重症度に関係なく将来的に後遺症を引き起こす可能性のある大変怖い怪我なのです。「捻挫は癖になる」と言ったことを皆さんの中には聞いたことがあるのではないでしょうか?その理由について幾つか挙げていきたいと思います。

第一に、捻挫により損傷した靭帯は時間がたつと自然に治るとは限りません。捻挫による靭帯の損傷には繊維を伸ばしてしまったというものから完全に切断されたものまで幅広く含みます。まず一度切れてしまった靭帯は残念ながら再生されないと言われています。完全には切断されず伸ばした場合でも繊維の何本かが切れてしまえば多くその場合は元通りにならないままです。腫れが出るほど捻ってしまったのであれば繊維の何本かは切れてしまっていると考えて良いと思います。その場合は当然ながら足首関節が以前よりも緩んでしまった状態に陥ってしまいますので、以前よりも簡単に捻りやすい状況になります。

第二に、捻挫により関節周りの靭帯にある関節の位置を感知するセンサーが壊れてしまいます。このセンサーは通常瞬時に関節の場所を感知し、地面の状態に合わせて足首の角度を変たり、重心を調節したりして無意識下で体のバランスをとっています。また関節が変な方向に捻ったりしないよう筋肉と常に連携し関節をコントロールしています。例えば通常歩いている時にわざわざ下を見て地面の角度など気にしながら歩かないですよね。それは足のセンサーが足が地面に着く際に素早く地面の状況を感知し、無意識化で素早く足や体をアジャストしているからなのです。サッカーなどのスポーツではこの能力の高さが非常に大切です。しかし、捻挫をしたり、または足の手術などをするとこのセンサーが自動的にオフになってしまいます。痛みや腫れが引いた後も自動的には戻らず、リハビリをしっかりしないとこの機能が戻ってこないと言われています。その結果、必然的にバランスや重心のコントロールがかなり悪くなってしまいます。ただ、人間は一つの機能を失っても他の機能でカバーする力がありますので、例えば、視覚に頼って生活はできますので、一見バランスも保てているように見えます。しかしながら体の中の対応の仕方は以前とは違うものになってしまっているのです。ですので視覚が効かない状況になると極端にバランスが悪くなり、足首を捻りやすくなるのです。

この二つの理由はよく一般的にも言われていますが、もう一つあまり知られていない理由があります。この第三の理由は私が一番懸念しているのですが、捻挫による足関節群の「ズレ」です。図3にありますように足首、足というのは非常に小さな骨の群集です。それが靭帯によって繋ぎ止められているわけです。考えても見てください、靭帯が切れてしまうほど大きな力がこのような小さな骨に加わっていくのです。当然の如く、その力によって骨も引っ張られ、関節が「ズレ」てしまいます。厄介なことにほとんどのケースでこうした「ズレ」は自動的に戻らず、何十年たってもそのままの状態で残ってしまいます。

そしてこの第三の理由こそが、私のいう「捻挫の本当の問題」であり、そして「将来的な後遺症」の大きな原因になっているのです。

この「ズレ」の引き起こす問題は多岐にわたります。まず、①関節炎です。関節が歪んだ状態になりますので全体重がかかる足首関節に対してその圧が均等ではなくなってしまいます。その為、特に内側の足首関節にはより多くの圧が常にかかってしまい、軟骨が磨耗しやすくなり、関節炎が起こりやすくなります。さらに②足底筋膜炎や外反母趾です。関節が「ズレ」ることによって他の筋膜や靭帯の状況も変わってしまいます(図4)。その為に余計な周りの軟部組織に負荷がかかってしまう可能性があります。また、関節のズレから特に背屈の可動域(足を自分の方に向ける)が失われてしまいますので足首を真っ直ぐに使えなくなってしまうことが多いです。その為、足を少し外股に使う癖ができやすく、足底筋膜炎や外反母趾につながる可能性が高まります。その他にも③股関節、骨盤、更には腰や肩への影響があります。足は全体重を支えているため、こうした「ズレ」により均等な体重分配が出来づらくなります。また足の長さ自体も違うように感じると思います。その為、骨盤に歪みを生じさせ、その結果股関節痛、腰痛、首肩痛などなどを引き起こす可能性も高いのです。

実際私は首痛の患者さんにせよ、腰痛の患者さんにせよ患者さんにほぼ必ずと言っていいほど足首の触診を行いますが靭帯が緩いだけでなく、関節が「ズレ」ていてそのために別の部分へ影響がでているケースが多々あります。そして腰痛の根本的解決のため足首を治療することも少なく無いです。

さて身近な捻挫の怖さを解っていただけたでしょうか? 多くの人は痛みがなくなったら治ったと勘違いしている人がいます。もちろんレントゲンやMRIを撮って解ることでもありません。そして、残念ながら医療従事者の中にも腫れと痛みが無くなったら「完治」という判断をされる先生方も多いです。

では、捻挫をしてしまった時にきちんと直すにはどうしたら良いのでしょうか?

まず、初期炎症を抑える。これは常識的ですが大変大切です。炎症が長引くとそれ自体関節組織にダメージを与えるのでまず素早く炎症を抑えましょう。アイシング、そして圧迫などで抑えるのが通常です。またClass IVコールドレーザーと呼ばれるような治療器にアクセス出来るのであれば初期炎症や組織回復に有効的なのでオススメです。

捻挫が繰り返す理由の第一に挙げた靭帯の緩みですが、これは筋力でカバーすることができます。特に長腓骨筋(図2)がこの靭帯のサポートが出来るのでリハビリ過程で筋トレするといいです。

次に第二の理由として挙げた関節の位置を感知するセンサーの低下によるバランス問題に関しては、バランスエクササイズによってふたたび取り戻すことができます。先ほど書きましたが捻挫後は視覚に頼ってバランスを取っていることが多いです。試しに片足立ちになり目をつぶってみてください。捻挫の後は極端にバランスが悪くなります。最低でも30秒ぐらいは保てて欲しいですね。初めは単純に片足立になる、30秒保てるようになったら目をつぶってバランスをとる、30秒保てるようになったら太極拳のように片足でバランスを保ちながら体の動きを入れる(図5)、さらに不安定な土台で上でバランスをとる(例えばクッションの上など)と言ったように少しずつチャレンジしていくと良いです。バランスは何もしなければ年齢と共に衰えていきます。ただトレーニングをすると必ずバランスは良くなります。少しずつ日々の生活に取り入れていくと将来的な転倒や捻挫の再発の予防に役立ちます。

第三の理由として挙げた関節の「ズレ」は自分では戻すことは難いため、キチンとトレーニングを積んだ適切な治療家に見てもらうことが大切です。我々ファンクフィジオ ではFunctional Mobilizationという手技を使いますが他にも色々な方法があります(図6)。何年、何十年前に起こした捻挫でも(時間がかかるにせよ)この「ズレ」は治せますので、早めに対処していた方が良いですよ。施術後は足に体重がしっかりと乗り今まで地面を今まで感じられていなかった自分に気づくはずです。

たかが捻挫、されど捻挫。まず痛みや腫れを治すのはもちろんですが、この足関節の「ズレ」のチェック・治療は必ず、そして早めにしておいたほうがいいと思います。もしかしたら今あなたが悩んでいる腰痛、膝痛、首肩痛の原因の一因になっている可能性もありますよ。

A close up of a logo

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図1:典型的な内側に捻って生じる足関節外側の靭帯(前距腓靱帯)の捻挫

A person standing on the floor

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図2:長腓骨筋とそのトレーニング;ぐっと親指を押し込むように爪先立ちになります。痛み、腫れが治ったら1日三十回行いましょう。

A drawing of a person

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図3:足関節周りの骨群

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図4:関節の「ズレ」が生じることによって周りの軟部組織のバランスも崩れる

A person standing in a room

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図5:バランスエクササイズを心がけると転倒などの将来的な怪我の予防にもなる。A person sitting in a room

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図6:ファンクフィジオ ではFunctional Mobilizationという手技を使って足首の「ズレ」を元に戻していきます。

今回の捻挫に関してYouTubeでのビデオがありますのでそちらもどうぞ

リンク先:https://youtu.be/y7N5WeFgd28A face shot of a social media post

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