ゴルフの練習法
T: 今回はMプロにゴルフの練習についてお聞きしたいと思います。Mプロは1年間日本に帰っていらっしゃいましたが、日本とアメリカで練習法の違うことって何かありましたか?
M: たくさんありました。まず練習のスタイルとかがかなり違いましたね。 一つ例を挙げるとアメリカではゴルフ場で好き放題ボールを打っているのに対し、日本では「ドリル練習」をしていることが多かったです。
T: 「ドリル練習」ですか。片手だけでクラブを打ったり、両足を揃えてボールを打ったりして体の動きを覚えたり矯正したりする練習法ですよね。
M: はいそうです。日本のゴルフ雑誌とかレッスン本には色々なドリル練習が紹介されていますよね。だから読者は、このドリルをやってみよう!と思ったり、またはレッスンプロにこのドリルをやりなさいと言われて一生懸命練習してるのでしょう。日本は、レッスンプロも含めて練習=ドリルという考えが蔓延している気がします。しかし、僕の専門である運動学習という学問の観点からすると実はドリル練習はとても効率が悪い練習方法として捉えられています。
T: え!?そうなのですか!?? なぜドリル練習は効率が良くないものなのでしょうか?
M: ドリル練習とは、ある特定の課題の解決の為に、部分的な補正をすることを目的として、ある動作を反復するという練習法です。例えば、
スイング中、肘や手首の動きがおかしい人は、肘や手首の動きをなおす為に片手でハーフスイングをX回しましょうという練習があります。(図1参照)。 実際、この練習により 片手打ちがとても上達した人って結構います。
T: 練習の効果が出ていると受け取ってはいけないのでしょうか?
M: それが違うのです。そうして片手打で肘や手首の動きが良くなった人が実際にフルスイングをすると手首の動きはどうなってる人が多いですか?
T: そういえば、片手打ちでボールを打っているときと違い、症状が治っていない人が多い気がしますね。(図2参照)
M: その通りです。身体の一部にフォーカスを当てるドリル練習には根本的な欠陥があるのです。というのも、人間の動きは脳の運動プログラムによって支配されます。 スイングに個性があるのはこの運動プログラムが異なっているからです。そして片手打ち練習をするときの運動プログラムは実際にコースでボールを打つ時のそれとは全くの別物になります。片手打ちが上手い人は片手でボールを上手く打つための運動プログラムつくり上げただけです。ですので、両手でフルスイングする時には身体は昔と同じ運動プログラムを使ってしまうのです。
T: ドリル練習だけをしても実際のゴルフショットの問題点が解決しないというわけですね。ドリル練習を永遠と繰り返す日本の教え方は問題ですね。
M: さらに、ゴルフスイングのように『非常に速くプログラムされた動作では部分練習では滅多に有効ではなく、学習に有害ですらある。』というドリル練習の有害点を述べた学説もあります。ゴルフスイングは振り上げからフィニッシュまで一瞬に行われます。 ドリル練習は、実際のスイングに応用されにくく、逆に、プレーヤーをイップスにしてしまう負の可能性も秘めているのです。
T: ではどのような練習方法が良いのでしょうか?
M:ドリル練習をするなといっているわけではありません。ドリル練習だけを黙々とやり続けることが問題なのです。例えば片手打ちの例をとると、ある程度肘の使い方がドリル練習を通して感覚がつかめたら即座に両手でのスイングに応用させていくことが大切です。さらには、ハーフスイングやフルショットなど様々な状況下でのショットを想定しながら肘の使い方を覚えさせていくことも必要です。そうやってスイングの運動プログラムを徐々に書き換えていってあげることが上達へのカギです。